ここは洲本市本町地区。洲本城の城下町であり、古くから洲本の中心地として栄えてきた。
そんな本町に「Workation Hub 紺屋町」がオープンしたのは2021年5月のこと。「ワーケーション」とは「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語。コロナ禍で多様な働き方が脚光を浴びる中、この言葉に聞き覚えのある人も多いかもしれない。しかもこの物件、週末は手前が淡路島産の食材をふんだんに使ったシャレオツカフェになっているという。なにそれ!1度の取材で2度おいしいやん!さいとうは早速取材に向かった。
カフェスペース「テーブルと燕」の記事はこちらから
たどり着いたのは洲本市役所から徒歩7分、本町商店街から徒歩3分の好立地にある古民家カフェ兼ワーケーションスペース。
さいとうが到着したのはお昼の12時。今日お話を聞く徳重(とくしげ)さんは、まだ到着していないようだ。ちょうどランチタイムということもあり、お話を聞く前ではあるが、先にカフェスペースで食事を堪能することにした。
ちょっとまって。あんなにでっかいキリンビールの看板がかかってるのに、メニューにないんだけど。なんで??
ここはもともと、「稲田屋」っていう酒屋さんを経営してたからな。それから色々あって、うちの会社が買い取ったんやけど、あの看板は当時の名残で残してあるねん。
いや、誰?????
解説を挟み込んでくるこの人は、さいとうの職場の元先輩・玉井さんで、今はシマトワークスという会社の取締役を務めている。「テーブルと燕」の店舗でもあるこの建物は、シマトワークスが所有しているらしい。
いやいやいや、今日は確か、シマトワークスの徳重さんにインタビューさせてもらうはずじゃ…?
しげちゃん(徳重さん)なら少し遅れるみたい。先にご飯食べとこ。
なんでここに玉井さんがいるのかを聞いてるんですけど。
「いやあ、リノベーションの費用が足りなくてさ。途中からは友達や街の人まで手伝ってくれて、必死で土壁を塗ったわ」と、「Workation Hub 紺屋町」の思い出を語る玉井さん。シマトワークスに勤めはじめてから、マイペースっぷりに磨きがかかったような気がする。
今回お話を伺うのは「Workation Hub 紺屋町」を経営する、シマトワークスの徳重正恵さん。お酒が大好きで、飲ミニケーションで培った人脈がとにかくすごいらしい(玉井さん談)。
■一人ひとりの心地よい働き方に合わせた多様な選択肢を
「ワーケーション」とは日常とは切り離された土地で仕事を行うことで、生産性を高め、心身の調子を整える働き方の一つだという。徳重さんによると、洲本の本町周辺地区はワーケーションにぴったりの土地らしい。
非日常の場所と言っても、小さいころからこの土地で育っているからか、そんなに特別な感じはしないんだよな…徳重さんから見た、洲本の魅力ってどんなところになりますか?
山の自然も感じられるし、海まで歩いて行ける、そこが大きかったですね。しかも、夜になっても飲みに行けるお店がある!
なんか徳重さんらしい回答ですね(笑)確かに、山、海、飲み屋って、それぞれはありふれてるけど、それがコンパクトにまとまってるっていうのは珍しいかも?
ワーケーションで他の地域から来てくれる人は、環境の変化とか、働き方の多様性を求めて来る人が多いんです。そういう人たちに、いろんな選択肢を用意できるのは魅力ですよね。
なるほど。山に登りたい気分のときと、海を眺めてリフレッシュしたいとき、その選択ができる自由があるのはいいですね。
働き方の選択の自由は、場所以外にもあると思っていて…例えば、今日私は朝の5時に起きたんですけど、
早くない!?
時々するんですよ(笑)それというのも、私は今日、絶っっっっっっ対に飲みに行きたいと思っていて。
はあ。
仕事はいっぱいあるけど、朝少し早く起きて働き始めて、夜は美味しいご飯とお酒を思う存分に楽しみたいと思ってるんです。
あとは、お客さんも来てくれるから、そういう人たちと過ごす時間はやっぱり大切にしたい。それと、観光の企画の仕事をするときには、街と切り離された空間で仕事をするよりも、街の雰囲気が分かる場所に身を置いて仕事をする方がアイデアも出てくる。
そうやって考えると、仕事の内容や働き方の価値観って人それぞれ。それに合ったワークスペースや勤務時間を選べると素敵ですよね。
その通り。考える時も、机に向かってうんうん悩むよりは、お風呂にでも浸かってのんびり考えた方がいいアイデアも浮かぶでしょう?この場所、街の銭湯まで徒歩1分なんですよ(笑)
うわ、いいな~!行き詰まったときはとにかく風呂!分かる!!
■Work(仕事)&Vacation(休暇)
定まった場所や決まった時間に縛られず、自分たちで働き方のオーナーシップを持つことが大切だと語る徳重さん。ただ、企業にワーケーションを継続的に続けてもらうためには、単に施設を提供するだけでなく、様々な工夫が必要だという。この気づきは、徳重さん自身の淡路島との関わり方の中から見出されたそうだ。
もともとは神戸で衣料通販の会社に勤めていた徳重さんは、現在のシマトワークス社長が企画したイベントに参加したことをきっかけに、毎週末、淡路島に通う生活を続けていたという。その期間、約10年。
10年かあ…すごいですね。
すごく長いですよね。実はここにもワーケーションを長く続けてもらうための秘訣があると思うんです。
最初は休日に遊びに通ってたんですけど、それを聞いた職場の上司が、「そんなにしょっちゅう行ってるんなら、何か面白い仕事、作ったらええやん!」って声をかけてくれて。
今思えば、それがすごく良かったなと。
と、いいますと?
遊びで行くのと仕事で行くのとじゃ、優先順位が違うじゃないですか。遊びだと、最終的に行かなくても何とかなっちゃう。
私も洲本で出会った人々と、小さいながらも縫製の事業を立ち上げたから、神戸で勤めながら10年も通えたんだと思います。
なるほど…ご自身の体験がベースにあったんですね。
そうですね。だから、この事業の骨組みを考えるとき、「何かしら新しい事業を育てていくことを設計に入れた方がいいよね」っていう話はみんなでしました。
「ワーク」&「バケーション」の中の、バケーションを楽しく過ごすだけでなく、仕事を共に作り出すことができるっていうのが、この施設の特徴として大きいかも。
■他者との「接点」
改めて考えてみると、「Workation Hub 紺屋町」はすごく不思議な空間だ。カフェの一部であり、ワーケーション施設であり、シマトワークスという会社のワークスペースでもある。この場所について、シマトワークスの皆さんはどのように捉えているのだろうか。
この、「Workation Hub 紺屋町」はシマトワークスさんにとってどのような場所ですか?
まさに「接点」だと思います。この拠点はいろんな人が来てくれて、他愛もない相談からプロジェクトが始まったりする場所です。そういう企画のスタート地点というか、出会いの場だと思ってます。
僕たちとの出会いでもいいし、僕たちを介さずに、飛び越えてそこで新たなものが生まれるならそれもいい、って感じかな。
事務所という面から言うと、今までシマトワークスでは、そういう建物が無かったわけじゃないですか。
え?じゃあ来客や打ち合わせの時はどうしてたんですか?
「じゃ、10時にイオンのフードコートで」って。
爆笑。
フィールドに来てもらうことによって、「なるほど、そういうことを価値として作っていってるんですね」って、目に見える形で伝えることができる。この場所に人が来てくれるのがうれしいし、ここから始まることも結構多いのかなって思ってます。
実際に、ワーケーションスペースの会員さんに誘われて、共同でコンペに応募したり、カフェの常連さんであるお酒屋さんからワインを取り寄せ、交流会の際に使用したりと、少しづつ交流が生まれている模様。私もランチを食べている最中、常連さんらしきマダムから世間話を持ち掛けられた。それも、「Workation Hub 紺屋町」が持つオープンな雰囲気と、ここを「接点」として定義し、集う人々の力によるものなのだろう。
徳重さんも玉井さんも、カフェの開いている時間にはこの場所で過ごすことが多いとのこと。もしもこの場所を訪れて、彼らに出会ったらぜひ話しかけてみてほしい。新しい何かが、そこから始まるかもしれない。
■Workation Hub 紺屋町
所在地:洲本市本町7丁目1-32
HP:WORKATION HUB – workation.life | 淡路島をフィールドにしたワーケーションプログラム