ここは洲本市本町地区。洲本城の城下町であり、古くから洲本の中心地として栄えてきた。

そんな本町にカフェ「テーブルと燕」がオープンしたのは2021年5月のこと。古民家を利用した外観と、ランチプレートのシャレオツさが凄まじいギャップを醸し出していると、さいとうの周りでもかなり話題になっていた。しかもこのカフェ、奥のスペースがワーケーションのスペースになっているという。なにそれ!1度の取材で2度おいしいやん!さいとうは早速、取材に向かった。

ワーケーションスペース「Workation Hub 紺屋町」の記事はこちらから

外観は周りの街並みになじむ古民家。通りに面した窓は大きく、自然光がふんだんに差し込む。

本日お話を伺うのは店長・藤田祥子さん。

店長のお一人、藤田さん。素敵な笑顔でお出迎えしてくれた。

■「コピーライター」と「カフェ店主」二足の草鞋のワケ

さいとう

ランチプレート、すっごく美味しかったです!それにしてもすごい品数ですよね。淡路島の食材もたくさん使ってるし…仕込みとか、大変じゃないですか?

藤田さん

時間はなるべくかけないけど、しっかり手の込んだものができるように工夫しています。例えばパンプレートのトマトは、前日にマリネ液に漬け込んでおくと美味しくなる。自分でルールを決めて、木曜から日曜はカフェの仕事をすると決めています。

さいとう

木~日はカフェのお仕事なんですね。じゃあ、月~水は何をされているんですか?

藤田さん

コピーライターとしての活動をしています。

さいとう

まさかの同業者!しかもダブルワーク!めちゃくちゃ大変じゃないですか。「書くこと」と「料理すること」、両方をやろうと思ったのはどういった理由で?

藤田さん

2014年にそれまで勤めていた神戸の会社を辞めて、淡路島に移住してきました。実はその前から淡路島には仕事で定期的に訪れていて、第一次産業に携わる人たちのお話を聞く機会があったんです。「地域おこし」って真面目で固い雰囲気だけど、島の人たちは難しいことでも軽やかに・笑って・主体的にやってるイメージがありました。「私も淡路島の人のようになりたい」って思ったのがまずきっかけとしてありましたね。

レジの隣には一つづつ丁寧に作られたお菓子が並ぶ。お菓子のみの購入も可能。

大好きな島の人たちの魅力を伝えるためには、どうすればよいのか。藤田さんが考え抜いて出した結論は「書いて」伝えることだったという。

藤田さん

私、小学生の頃からアナウンサーになりたくて、中学生の時は放送部だったんですよ。言葉で人に伝えることは、小さいころからの夢でした。

神戸でも編集など、クリエイティブ系の仕事をしていた藤田さん。移住当初は編集の仕事も視野に入れていたそうだが、「もっと突き詰めた、自分の武器が欲しい」という思いからコピーライターとしての道を歩み始めた。2年ほどは、淡路に住みながら大阪の事務所で仕事をし、コピーライターとしての修行を積んだという。

燕定食/汁物とおむすびがころりん愛しい定食。淡路島の食材をふんだんに使用したプレート。
藤田さん

飲食の方は、実は偶然なんです。仕事を辞めたタイミングで、ちょうど淡路市のカフェをやる人がいなくて困ってる、という話を聞きました。学生の時にスターバックスやパン屋でアルバイト経験があるのと、実家が宿をやっていて、ご飯の提供の手伝いをしたことがあるくらいだったんですけど…島の人が作った美味しい野菜やお肉を料理して、「こんなに魅力的な人がいるよ」って伝えることならできるかも、って思ったんです。

さいとう

言葉で伝える、料理で伝える…全然違うアプローチだけど、その根っこには、島の人の魅力を伝えたいという思いがあるんですね。

藤田さん

あと、私、人の話を聞くのが好きなんです。インタビューしてると、その人の目の奥がふわっと輝く瞬間があると思うんですよ。「この人が大事にしているのって、ここなんや」って感じる。それを見るのが好きなんです。

さいとう

めちゃくちゃわかります…!

藤田さん

人のときめく瞬間に立ち会いたいんでしょうね。カフェでプレートをお出しするときにも、「farm studio」の畑から見える景色は、今の時期だとこんな感じで…って伝えるようにしてます。友人や仲間たちが、いいな、って思って作っているものを、私も「いいでしょ!どう?」という感じで紹介したいというか(笑)だから、飲食の方もコピーライターと同じようなベクトルでやってますね。

テーブルプレート/ホットサンドとポタージュスープのプレート。プレートランチはパンとおむすびの2種類。藤田さんがパン、もう一人の店長である岡田さんがおむすびのプレートを担当している。

■farm studio

「farm studio」とは淡路市東浦にある農園の名前であり、活動チームの名前でもある。現在は農園、直営店チーム・カフェチーム・企画チームの3部門で活動を行っていて、「テーブルと燕」はカフェチームが運営している。

農園は会員制となっており、希望者に貸し出しも行っているという。

後日、farm studioを案内してもらった。藤田さんお気に入りの場所は空が近く、海がよく見える特等席。
藤田さん

farm studioは、海が見えて、小高い山の上にあって、すーごい気持ちのいいところ。

さいとう

藤田さんにとって、大切な場所なんですね。

藤田さん

そうです!淡路島の中で一番好きな場所かもしらへん。自分がかかわり始めてから少しづつ畑の範囲も広がってきました。イチゴ農園を開いて、人が来るようになって、畑の会員さんが増えて、定期的に畑に来る人が増えて…そういう活動を10年くらいかけて続けてきたから。

さいとう

わー!話しててもすごく伝わってきます。0からスタートして、少しずつ育ててきた場所なんですね。素敵な場所なんだろうなあ。

藤田さん

もちろんこのカフェに来てくれるのもうれしいけど、私たちのやっている活動の奥行きを「見たい」という人をもっと増やしていきたい。最終的には一緒に畑に行って、あの場所でやりたいことを見つけてもらうっていうのが一番うれしいですね。

farm studioでそれぞれの「やりたいこと」を実現してほしいと語る藤田さん。しかし、farm studioは農園である。畑でやることというと限られているような気も…

写真のガラスハウスではイチゴの栽培を行っている。大きなミモザの木がシンボル。
さいとう

土を耕すとか、収穫したものを料理して食べるとか…?

藤田さん

確かに(笑)「農園」とか「畑」って言っちゃうと限定されちゃう感じはしますよね。

farm studioのテーマが「荒れ地でなにを描きましょう?」っていう言葉なんです。作ったものを食べるだけじゃなくて、あの畑で「私はこれを育ててみたい」とか「ヨガをやってみたい」とか「友達を呼んで誕生会をしたい」とか…なんでもいい。私たちが拓いた畑を楽しんでくれる人が増えたらいいな、って思ってます。

さいとう

おお。想像以上でした。思った以上に活動の幅が広いですね。

藤田さんにとっての活動のゴール地点はどういうところになるんですか?

藤田さん

そうですね。「テーブルと燕」を起点にfarm studioの農園に来てもらえるとうれしいなと思っていて。1年に1回、5月にオープンファームをするんです。去年は「テーブルと燕」で出会ったお客さんと一緒にお弁当を作って、畑で食べましょうって企画をしたんですけど、それが一番、ほんまにやりたいことですね。この場所が畑への入り口になったらいいな。「Road to farm studio」ですね。

さいとう

あ!今の「Road to farm studio」ってめちゃよくないですか?タイトルにしてもいいですかね?

藤田さん

ちょっとダサくない??(笑)

farm studioの麦畑。収穫は初夏だという。

farm studio の話をしている藤田さんの瞳はいきいきと輝いている。淡路島の食材をふんだんに使ったメニューからも、「この場所が好き!」という藤田さんのまっすぐな気持ちが伝わってくるようだ。

季節は春。farm studio からは、春霞に潤んだ大阪湾の様子が一望できる時期だ。藤田さんの言葉を聞きながらランチプレートのパンを一口食べると、麦畑に吹くやわらかな風が感じられるような気がした。

■テーブルと燕

所在地:兵庫県洲本市本町7丁目1-32
tel:0799-38-4416
instagram:https://instagram.com/fs_table_tsubame?igshid=YmMyMTA2M2Y=

HP:farm studio – ファームスタジオ