洲本市街中心部に鎮座する洲本厳島神社。われら洲本市民の間では「弁天さん」の愛称で親しまれている、古くからある神社である。

その神社の前をズドンと通る、「弁天銀座」と呼ばれる通り沿いにあるスタジオ「荒木写真場」。噂によると、「神戸新聞」(淡路島でよく読まれている地方紙)でもよく取り上げられるほどの、卒業アルバム作りのエキスパートがいらっしゃるとのこと。こりゃあ行くっきゃない、ということで、住人さいとうが早速向かった。

さいとう

こんにちは!トウダイモトクラ荘のさいとうです。今回向かっているのは荒木写真場。成人式の前撮りも、証明写真もこちらでお世話になってきました。今日はそんなお店の舞台裏を見せていただけるということで、ドキドキがおさえられません!どんなお話が聞けるかな?レッツラゴー!

若干の昭和のノリを醸し出しつつ、向かったさいとうを出迎えてくれたのは荒木佑哉さん&長谷田久仁子さん。荒木写真場は親族経営で、お二人は伯母甥のご関係なのだとか。佑哉さんは2代目であるお父様のアシスタントを、久仁子さんは主に保育園や幼稚園の卒園アルバム作成をご専門にされているのだという。

佑哉さん

スタジオは2階ですので、そちらでお話ししましょうか。

さいとう

あの~、実はですね、こちらの写真場で撮影したアルバムが、全国的にすごい賞に選ばれていると聞いてきたんですが…

久仁子さん

なら、社長の出番やね。毎年賞もろてるし、アルバムづくりに命かけとるから(笑)

■100点満点より70点?ご主人が体得した真実の答え

ここで登場するのが「社長」こと2代目ご主人の荒木健雄さん「アルバム作りに命を懸ける」男というだけあって、声の大きさからも人柄の熱さが伝わってくる。

なおめちゃくちゃ渋くてイイ声。
さっそくこちら、初めて受賞したアルバムにまつわる思い出を語っていただこう。

健雄さん

アルバムを渡すとき、「出来栄えは何点や?」って3年団の先生に聞かれる。当然、「100点です」って答えらなあかん。学校の先生は100点が好きやからな(笑)僕はその答えが、自分で言いながらもずぅ~っとしっくり来んかった。

さいとう

一年間ずっとアルバムづくりに携わるわけじゃないですもんね

健雄さん

うん、それにアルバム渡すのなんて、一瞬のことやろ?モヤモヤしつつも毎年やり取りは続いた。で、このアルバムができた時も同じように聞かれたんです。ほな僕「70点」って、瞬間的に口から出たんですよ。「なんでやねん!」と怒られました。

ほら怒るわな(笑)「いやいや、違うんです」と。「これを一人一人の生徒さんが見て、そこから中身が充実していって初めて100点になる」と。

さいとう

はは~あ。うまいこと言いましたねえ。

健雄さん

ふははっ!ええでしょ?

そしてこの笑顔である。

■写真業(はな)より飲食業(だんご)?

2階のスタジオにつながる出窓に飾られたカメラたち。故障したものの、捨てられずしまい込まれていたお客さんのカメラを、健雄さんが引き取ったものだとか。

徹底して品質にこだわり続け、数々のアルバムを世に送り出してきた健雄さん。日本商業写真連盟のシナリオ賞を6度も受賞するなど、その来歴には目をみはるものがある。これっていわゆる、天職なのでは?

健雄さん

実はね、もともとは飲食の世界に行きたかったのよ。

さいとう

ええっ?それはまた、意外なお言葉。理由をお伺いしても?

健雄さん

写真って、値打ち出るまでに時間が長すぎるんよね(笑)この時のアルバム、この時の写真って、こういう思いやったんかって、一生徒が気ぃつくまでにね。

さいとう

確かに。卒業してすぐに見返すときと、卒業後何年も経って、ちょっと色あせたページを久しぶりにめくるときと・・・そういえばお父さんと一緒に昔の親のアルバムを見たこともあったっけ。

健雄さん

ね?感じるものが ずいぶん違うでしょ?それはアルバムも成長して、中身が充実していってるからよ。でも、それには時間が掛かるんよなあ!そういう仕事、僕の父親や母親がずっとやってるわけですよ。横で見てて随分割に合わんなと…だって、美味しいもんやったら「このコーヒー美味しいねえ」って、すぐに言ってもらえるもんね(笑)

写真を写すという行為自体、あまり好きではなかったと語る健雄さん。生半可な気持ちを抱えての撮影は、お客さんに対して失礼という理由からだという。しかし、だからこそ逆に「やるからには徹底的に」とばかりに技術を磨き、良い機械を導入し、妥協のないものづくりを行ってきた。

ご主人による珠玉の作品の数々
健雄さん

クオリティの高いもんとかオリジナルで「もの」を作ると、それだけお金がかかるんよなあ。アルバム作りも、既定のデザインでやるのと、オリジナルデザインで作るのと、値段の差は10倍ではきかない。

さいとう

こういうことを聞くのは失礼かもしれないんですけど、利益って出るんでしょうか?

健雄さん

う~ん…もう、生徒のためっていうよりは自分の思い出のためにアルバム作っとるようなもんやから。自分の好きなことにはいくらでもお金かけれるやろ?(笑)

さいとう

おっ、漢気ぃ~~~!!

■2代目から3代目へ 引き継がれるバトン

さいとう

写真撮影の様子を撮らせていただきたいのですが…

健雄さん

いや~、僕はもう引退する身ィやからね

取材中、私たちの写真を撮ってくれる佑哉さん

そう、健雄さんは現在66歳。卒業アルバムは、65歳で引き受けた高校のものが最後(の予定)なのだとか。新入生が卒業するまでの3年間、つまり健雄さんが68歳になるまでは卒業アルバムの制作に専念し、その後の引退を計画しているのだという。

健雄さん

65歳で最後の仕事を引き受けたら、規模を縮小して、まあ適当な時にたたもうと、そう思ってたんですが…(と言いながら傍らの息子さんにチラリと目を向ける)

チラッ
佑哉さん

はい、親不孝者です(笑)

さいとう

はははは、じゃあ、息子さんが継ぐことは…

健雄さん

想定してなかった。というより、写真屋として生きていくのはほんまに大変なことですよ。というのはね、入学式や卒業式は、洲本市だと基本的に日程が重なるでしょ?身体一つで、いくつもできへん。仕事をとりたくても取れないんですよ。

さいとう

そういう風に大変なのを知っていて、戻ってきたんですね。

佑哉さん

小さいころから家族の職業を見てて、そういうのになりたいなあと思っていたんです。でも大学進学の時、専門のところに行きたいと言ったら反対されまして(笑)

健雄さん

と、いうよりな、例えば野球選手で言うと、高校生で150キロ投げる投手はそりゃ将来有望やな。でも親として、150キロの球、投げるところを見たわけじゃないから。それに賭けることはできへんかった(笑)

佑哉さん

結局一般の大学に進学して、でもやっぱりしたいなあって気持ちがあったので、帰ってきてお店を手伝うようになった、という形ですね。

けっこうキビシイことも言ってはいるけれど、三代目を見守るご主人は親の顔をしている。
健雄さん

ま、そういうわけやから。ほら、どうぞ!若い人!(笑)

では、Let’s撮影タ~イム!!

ここで久仁子さん&佑哉さんが動き出す!

久仁子さん

ここに乗ってもうたらええねん。モデルになったらええねん。そのまま…

佑哉さん

モデル…(笑)?

久仁子さん

モデル気分で(笑)いつもと逆やな。マスクどうしましょ、外そか?

卒園アルバム作りで鍛えられた的確な指示が飛ぶ!
久仁子さん

まずはカメラ構えて。ちょっと腰落として、姿勢安定させて。

激写!

久仁子さん

次はカメラ下げて、手を振って。「もうちょっと右で」とか、指示出してる感じで。

はい激写!

久仁子さん

カメラもっと下げて。あ、そうそう!OK,OK。

さらに激写!


どんだけ撮るねん。

(写真スタジオでポートレート撮影という、今後二度と訪れないであろう貴重なシチュエーションに、テンションが舞い上がった結果ですごめんなさい。)

さいとう

いや~、狭い空間に一眼を構えたカメラマンが3人というなかなかのカオスっぷりでしたね!いい写真&取材になりました。本当に長い間、ありがとうございました!

健雄さん

もし足りらんかったら、またのご来店を(笑)

一線を退きながらも今なおその情熱で写真場の大黒柱でいらっしゃる健雄さん。大変な仕事だと知りつつも、家業を継ぐために地元へ戻ってきた佑哉さん。これからも、ここ、弁天銀座通りで荒木写真場は続いていく。身近な場所にこんなに面白いお店があったなんて。まさに「灯台下暗し」。今回は紹介しきれなかったが、ここでは記念写真や証明写真も撮影してもらうことができる。みなさんもたまには写真場へ足を運んでみてはいかがだろうか。

荒木写真場
所在地:洲本市本町4丁目2−20
電話:0799-24-0365
営業時間:9:00~18:30
定休日:不定休
営業時間・定休日は変更になる場合もございますので事前にお問い合わせください。
駐車場:有