早速で恐縮なんですが、淡路島なるとオレンジというのはどんな果実なんでしょうか。

ほとんどが淡路島内でのみ栽培されてきた、柑橘類の一種です。品種改良が進んでおらず、原種に近い強い香りと風味の良さを持ちます。特徴のひとつは、加熱しても風味が残りやすいこと。それを生かして製菓や料理など、調理の現場で重宝されています。

結婚する前に果樹園を訪れる機会があったんです。妻と一緒に見て、「みかんがいっぱいあって、素敵やなあ」と。それで、継ぐことにしました。

今まで知宏さんはデザインの、晶子さんは建築の分野でご活躍されてたわけですよね。特に晶子さんは、お相手の方の家業を継ぐにあたって不安や葛藤はなかったですか？

家業継ぎたいって言ったの、妻ですからね。

えっ？

建物が気に入って。

この長屋の？

そうそう。立地も大通りからのアプローチが遠いじゃないですか。それと、五色が好きで図書館の近くに住みたいっていうのがあって。全部叶うやん、サイコー！って思って(笑)

か、かっこいい！！

それに、最初は今までの仕事を続けながら、週末に果樹園のお世話をしようかなって、それくらいの気持ちだったんです。でも、農業は想像以上に大変だった。今は農業９割、デザイン・その他の仕事１割っていう感じですね。

では、実際に作業の様子を見てもらいながらお話ししましょうか。

実際の話、なるとオレンジじゃなければ継いでなかったと思います。これがもし野菜農家やったら、継いでなかったな。

やらんかったな。毎日が忙しすぎて。

家庭菜園で野菜をつくったことがあるんですが、種をまいてから１〜２ヶ月で収穫ですよ。サイクルが短すぎて、「まじで？」って思う。なるとオレンジは実が成るまでに10～15年かかるし、寿命は100年や200年とも言われています。僕ら人間の寿命よりも長いから、すべてを見届けることができない。

そういうロングスパンなところが私らの生活に合ってた。建築も、図面を引いたり、工事に年単位かかることがあるから、待つのは得意やんな。

で、栽培方法とかも、実は確立がされてない。その辺もやりがいがあるかな、と思って。確立されてると、ぼくらは圧倒的に不利なんですよね。

それはどうしてですか？

ぼくみたいな完全素人の人間が、栽培方法の確立された作物に手を出しても、プロの農家さんには敵わないと思ったからです。

た、確かに…！じゃあ今も、淡路島なるとオレンジの栽培に関してはいろいろ研究を重ねている途中ということでしょうか？

そうです。もう、めちゃくちゃ頑張ってます。さっきも言ったとおり、淡路島なるとオレンジは成長が非常にゆっくりなんです。だから、いつかぼくらの試行錯誤が追いつく日が来るかもしれない。

淡路島なるとオレンジの魅力、本当にたくさんありますね。成長がゆっくりっていうのもあるし、ご自身のライフプランに合ってたっていうのもあるし、競合が少ないから、参入しやすいっていうのもあったと思うんです。

でも、自分の人生を費やしてもいい、と、そこまでの強い気持ちを感じたのは、淡路島なるとオレンジのどういう部分にだったのでしょうか。

う～ん、難しい質問ですね。すぐにそう思えたわけではなくて、携わる中で徐々に、という感じだったもんな。徐々にやけど…人生を費やしてもいい…か。

すごい良さげなのに、何がいいのかよくわからないところですね。

おー、ふかい！

しっくりくるやろ？なるとオレンジって、なんかすごく良さげやん。良さげやけど、何がいい？って聞かれたとき、一言で答えられへん。そういうところ。

なるとオレンジの良さって、本当に色々ありますよ。さっき説明したように、香りがいい・長年付き合える・伝え方や販売方法を考えるのが楽しい…ほかにもたくさん。でも、一言で説明できるような、簡単な魅力ではない。

解決せんほうがおもしろいよね。

うん。その魅力が万人共通の、分かりやすい甘さや美味しさなら、たぶん栽培に興味を持たなかったな。なるとオレンジって、「何が魅力なんやろう？」と考えても、すぐに答えが出ないんです。でもそれは、「魅力がない」という意味ではない。常に僕たちに「この果実の魅力とは何か」を考えさせてくれる、探求心を刺激し続けてくれる。そこが一番の魅力かな。