ここは洲本市由良地区。紀淡海峡と大阪湾に臨む、古くからの漁師町である。
そんな潮風薫る由良の町で、淡路島ならではのご当地果実・淡路島なるとオレンジの栽培を長年続けている方がいるという。しかもその御仁、なんと「森果樹園×ツギキ」の森さんが「レジェンド」と呼ぶほどのエキスパートだというのだ。これはもう、お話を聞きに伺うしかない。トウダイモトクラ荘住人のさいとうが早速現地へと向かった。
皆さんこんにちは!トウダイモトクラ荘住人のさいとうです。本日は、若宮ミカン農園さんにお邪魔しています。ご覧ください、この樹々を。周り一面中、淡路島なるとオレンジの樹ですよ、これ。
今回お話を伺うのは若宮ミカン農園を営む、若宮公平さん。
若宮さんは現在72歳。淡路島なるとオレンジに関する栽培のキャリアは長く、幼少期にまでさかのぼる。幼いころから家業のミカン農家を手伝い、成人してからは兼業農家として、本業に勤しむかたわら、農園を守り続けてきた。定年後は農園一筋。淡路島なるとオレンジの栽培に打ち込み、これまでに果樹品評会やコンクールで数々の賞を受賞してきた、その道の大ベテランである。
■淡路島なるとオレンジの辿った栄枯盛衰の歴史
ここのミカン畑、もとい、淡路島なるとオレンジ畑の歴史はいつから始まるのでしょうか?
うちのおじいさんが この土地を買ってね。私で三代目やな。最初はミカン畑やってんけどな。親父がほとんど全部、淡路島なるとオレンジの樹に植え替えてしもたんよ。昭和40年頃の話やな。
植え替えて「しまった」ってあたり、なにやらウラ話がありそうな…(笑)しかし、ほぼすべての果樹の植え替えとは、かなり思い切ったことをされましたね。淡路島なるとオレンジって結構珍しい果実ってイメージだけど、ちゃんと売れたのかな?
珍しいからこそ、よく売れた。まだ外国から甘いオレンジなんて輸入してない時代やさかいな。一番値段の高い柑橘を植えようという親父の考えやね。
若宮さんのお父様の読み通り、淡路島なるとオレンジは売れに売れた。当時、春から夏にかけて旬を迎える柑橘類の流通は少なかった。そのため、大阪や東京といった大都市では、珍しい果実として比較的高値で取引されたのだという。その勢いに陰りが見え始めたのは昭和の後期。関税の段階的な引き下げにより、安くて糖度の高い海外産のオレンジがいつでも手に入るようになり、淡路島なるとオレンジの需要は大きく低下していく。それでもなお確保していた京阪神間の流通市場も阪神淡路大震災によって大きな打撃を受け、淡路島なるとオレンジの黄金時代は終わりを迎えた。
■山と潮風…畑の立地
歓談しつつ斜面を登っていく。ちょうど山の中腹あたりで、若宮さんが眼下の畑を指し示した。
ここやと畑がよく見えるやろ?
そうですね。しかもちょっと涼しいような?
上のほうが涼しいねん。夏でも風が、下から「サー」っと吹き上げてくるさかいに。
うちの畑の面積は大体1ヘクタール。なるとオレンジの面積はそのうちの7割くらいやな。
ここって、栽培には向いた土地なんですか?
そうやなあ。海に近くて、潮風があるからねえ。塩気が飛んでくるから、土が豊かというか、柑橘類を育てるにはいい場所やな。方角でいうと、ミカン畑は北向きで、向かいの斜面が南向きやねん。
南向きのほうが、日当たりは良さそうやけど…向こうの斜面にオレンジの樹は植えないんですか?
確かにお日さんは向こうのほうがよく当たる。でもその代わり、南風(まぜ)いうんか、南の風もよく当たってなあ。春一番や吹いたときは、山全体が「ゴ~ッ」て鳴るほどや。樹もよく揺れるわな。そういうとこやと、せっかく生った実が落ちてしまうから向いてないんよ。
あとはミカン畑の後ろにある山。あそこが大事やねん。後ろの山が肥えとると、下の畑の作物もよく育つ。
■味わいの秘訣は自然の堆肥にあり?
一通り農園の説明をしていただいた後、若宮さんに自家製の淡路島なるとオレンジのジュースをごちそうしてもらった。
なんだろう?単にさわやかというだけでなく、不思議なコクというか、まろやかさもありますね。味に奥行きがあるというのかな。でも後味はすごくすっきりしてて、本当においしいです!
やろ?自然の堆肥をよく使っとるさかいにな。後ろの山から腐葉土になりかけの葉っぱを持ってきて、樹の根元にかぶせたり、あとは地元の畜産農家さんから堆肥をもらったりもするなあ。もみ殻と一緒に樹の周りに撒くと…ほら(手に持ったオレンジの実を下に落とす)。
あ、跳ねた!まるでトランポリンですね。
ふかふかして弾力性があるさかい、落ちても実に傷が付きにくいねん。今は実の多いとこだけに敷いとるけど、ちょっとずつ範囲を広げていきたいな。
■大変な作業…続ける理由は?
お話を伺ったり、実際に農園を見て回った限りでは、作業量はかなり多く、お仕事は非常に大変そう。さぞ多くの人数でされているのかと思いきや、奥様との二人三脚で作業を進めているそうだ。
こんなに大変な作業をお二人で?じゃあ意外と設備や機械の導入が進んでるとか?
いやいや、スプリンクラーなんてないから、水やりだってタンクに汲んでやってるし、もみ殻なんかも一輪車に乗せて樹を一本ずつ回って撒いとるねん。
ええっ?めちゃくちゃ重労働じゃないですか!
ま、健康のためにしよるようなとこもあるさかい。あっはっはっは。
あはは…まあ、お仕事が大変でも売り上げがあればなんとかなりますもんね。
いや、それがやで?
ええ?ま、まさか?
いっつも赤字や。黒字になることはあんまりないな。私らの年齢なら、年金で生活していくのが普通やのに、それを栽培につぎ込みよるくらいや。あっはっはっは。
可笑しげに笑う若宮さんだが、果樹園の管理・運営には手間と時間がシャレにならないレベルでかかる。消毒・施肥・剪定・水やり・収穫とそれに伴うもろもろの作業は、手間ヒマかかる上に体力勝負という激務中の激務なのだ。しかも収入は(ほぼ)なし。ここまで聞いて、さいとうの頭にはある疑問が浮かんだ。「若宮さんを淡路島なるとオレンジの栽培に向かわせるものはいったい何なのか?」考えようによってはかなり失礼な質問なのだが、こちらの問いに朗らかに、丁寧に答えてくれる誠実なお人柄に甘え、率直に聞いてみることにした。
あの~、こんなこと聞くのは失礼なのかもしれないんですけど…
さっきから、お話を聞いてると、淡路島なるとオレンジの栽培ってめちゃくちゃ大変じゃないですか。手間も時間もかかる上に体力も要る、しかも頑張って栽培してもそれに見合った収入が手に入るとは限らない。そんな状況で、それでもなお栽培を続ける理由とは…?
そうやな。ひとつはまあ、投資やと思ってる。
と、いいますと?
淡路島なるとオレンジに興味を持って、後継者になりたいという人が、もしかしたらこの先現れるかもしれへん。そのために、というのでもないけど、設備を整えたり、機械をちょっとずつ買いそろえたりもしてるねん。大したことではないけど、後から始める人の助けになれば…と思ってなあ。
あとは…待ってくれてる人が居るさかいに。「若宮さんのミカンを楽しみにしてます」って言ってくれる人や、毎年欠かさず注文をくれる人が居る。農作物は、買ってくれる人が居らんと成り立たん。
そういう方々の存在があるから、続けられる、と。
ちょっとでもええもん作ろうと、頑張ろうと、そういう気持ちになるわな。
それにせっかく、お祖父さんと父親が守ってきた農園やから、自分の代で終わらせるのはもったいない。身体が元気なうちは続けていきたいなあ。
たとえ年金を切り崩そうとも農園を続ける理由は、未来の後継者とご先祖、そして、若宮さんのミカンを待ちわびるお客さんたちの存在だった。利益を度外視して作られる淡路島なるとオレンジの果実は、みずみずしくさわやかな味わいで私たちを楽しませてくれる。なにはともあれ、ぜひ一度、由良の潮風の中で育てられたこの果実の味を確かめてみてほしい。一口味わえば、由良の潮風の中で生産を続ける若宮さんの姿が浮かんでくる…かもしれない。
ちなみに、淡路島なるとオレンジの食べ方は圧倒的にジュースがおすすめ!皮も柔らかいので手で簡単に絞れますよ!
絞った後の皮はお風呂などに入れると香りが楽しめてGOOD♪
■若宮ミカン農園
所在地:兵庫県洲本市由良町由良623
FAX:0799-27-0353
HP:http://www.naruto-orange.jp/index.html#anc1