2021年7月6日(火)晴れ
今日は平日の休暇。はるばる関東からやってきた友人とのんびり過ごす日。淡路島ならではの味覚といえば、やはり魚である。
今日は居酒屋で偶然隣になった地元のお父さんに聞いた、あのお店に行ってみることにした。五色町の「お多福」である。
洲本の市内からは車で20分~30分ほど、西側の海に向かって山をこえる。西と東をこの距離感で行き来できるのも淡路島ならではである。友人曰く「大阪湾と瀬戸内と両方見られるって不思議だね~」とのこと。私も、そう感じているぞ!
サワラが人気だと話を聞いた。なるほど、表玄関のおすすめにもサワラや地ダコなど、魅力的なメニューが並んでいる。さぁ期待を込めて、いざ入店!
日差しの差し込む明るい雰囲気。あ、これは素敵な店の予感!まずはメニューを拝見。
さすが!期待していたとおり、定食や丼もの、なんでもござれだ。「わ~。定食もたくさんある!いろいろあってそそられるね」と友人。一通り揃っているので、どんな気分にも応えてくれそうだ。
「せっかくだから淡路島っぽいものにするよ」と友人。私も同じく、名物「サワラ丼」を頼んでみる。
「なんや、にーちゃんらは淡路島の人か?」と、気さくな大将が話しかけてくれた。昨年から洲本に引っ越してきて、友人を案内していると伝えると「よっしゃ、おもしろいもん見せたろう」と、キッチンへ案内してくれた。
ちょうどお昼のピークタイムを過ぎた14時。私たちだけだったこともあって、大将がサワラを調理するところを見せてくれるという。
「10年くらい前にな、うちのサワラのメニューができたんや。でもな、まさかこんなに観光の人に喜ばれるメニューになるとは思わなんだ」。
2014年から淡路島の新名物としてサワラメニューの開発が始まったようだ。一般的には、味噌漬けや塩焼きで食べることが多い魚だが、淡路島の人たちが揃って言うのは「おいしいのは生」。新鮮なサワラでないと食べられないので、島の外ではなかなかお目にかかれない。移住する前に、島の居酒屋で刺し身を食べたときは興奮したものである。
サワラは漢字で書くと「鰆」。春のイメージが強いが、冬になると産卵期になるため脂が乗っておいしいのだ!なんて講釈をたれていたら「身と皮の間にな、脂があるんよ。うちの丼の食べ方は炙りや」と、大将。話しすぎた自分に、ちょっと恥ずかしくなってしまった……。
チリチリという音と、香ばしい匂いが広がる。脂の香りがふわ~と漂ってきて、もうたまらん!という感じ。
「俺は10代で淡路島から大阪に出てな、料理の修行したんや。40年くらいまえにこのあたりで災害があってな。家を立て直すっていうから、島を出て2年半後に淡路島に戻ってきたんや。まだ料理人としては駆け出しやったからな、もっと勉強したかった。帰ってきて食堂することになって、地元の漁師さんに魚の目利きを教えてもらったり、お客さんにいろいろ聞いたりな。地域の人達に支えてもらって今日まできた」。
サワラを調理しながら大将が話を聞かせてくれる。
「みてみぃ!分厚いやろ、魚の厚さは心の厚さやで笑!このサワラ丼は『やってみましょう!』って言うてくれた子がおってな。自分は地域の人に支えられてやってきた身やからな、応えなあかん思ってな。恩返ししたいと思ってたんや」。
試作を重ねていたとき、ふと思い出したのが大阪で料理を勉強していたときのことだったそうだ。女性は山かけうどんとか、山かけ丼とか、とろろが好きな人が多かったなぁ……と記憶がよみがえり、この炙り丼にもとろろをかけてはどうかと考えたのだという。
「このトロロが、全体をまとめてくれる。一回食べてみてや、おいしいで!」
大将の話に聞き入っていたら、気がつくと丼が完成していた!サワラがたっぷり、海苔に小エビが散らしてあって、彩りも美しい。
みよ、この厚みを!大将の心の厚さである……!ひとくちいただくと、香ばしくてまた刺し身とは違った香りと食感。山かけがいい具合で全体をまとめている。
「炙りってのがいいね、燻製とはまた違うけど味の奥行きがあって……」とサワラ丼を食べながら感動を話し始める友人。たしかに、いろんな生サワラを食べてみたが、この炙りと山かけというのは他になく、ひでおランキング上位に入る勢いだ。途中から、友人と私も黙々と食べ進め、完食。男性も満足できる大ボリュームであった。
「このサワラ丼のお陰でな、食堂も悪ないなって。やっと楽しくなってきたわ。テレビにも出たんやで。これからな、また新しいこともやってみたいんや。淡路島食堂ていうてな……」と、夢を聞かせてくれた大将。食が豊かな淡路島を食堂と捉えて、いろんなメニューを提供するのはどうだろう?なんてプランや、新しい商品開発のことも話してくれた。
ついつい話し込んでしまい、14時に入店してから気がつけば17時。「移住してきた子もよく遊びに来てくれるんやで。またいつでもおいでや~」と温かく見送ってくれた。友人も満足したようで「大将、すごいいい人だったね。淡路島、いいね」なんて褒めてくれたものだから、鼻高々。居酒屋で教えてくれたお父さんに、一杯ごちそうせねばだな。
あぁ、これだから洲本探検はやめられない、いい一日であった。
お食事処 お多福
所在地:兵庫県洲本市五色町都志174−1
電話: 0799-33-0341
営業時間:11:30~21:00
定休日:日曜日
駐車場:有